優秀な人が管理職に昇進してもうまくいかない理由ってなに? というレビュー論文

 
 仕事の手腕や、長年の経験が評価されて管理職に昇進したけど、いざ管理職になるとパッとしない人っていますよね。
 
 「そういう人たちは管理職について、五つの誤解をしているから仕事が軌道に乗るまで時間がかかってるんやで!」というレビュー論文を邦訳してくれた面白い一冊があったので、ご紹介します。
 

新米管理職の抱きがちな五つの誤解とは?

 こちらは1992年に発表された研究結果を下敷きに、2007年にハーバード・ビジネス・スクールが発表したレビュー論文となります。
 前置きとして、「新米管理職は新しい仕事の役割を誤解しているため、管理職として行動できるまでの時間が必要以上にかかってしまうケースが多い」ということが述べられてまして、それが以下の5つとなります。
 

誤解その1 管理職の権限は絶対的なものだ

 とにかく新米管理職は、自分が管理職になることで得られた権限によって、「もっと有益なことを、もっと自由に実践できる」というふうに考えがち。
 けど、実態としては上司や部下、同僚だけでなく社外の人から様々な要求を突きつけられるので、「自由なんてない、全然ないじゃん」と感じてしまうらしい。意思決定の責任を取らなきゃいけない立場ってつらいでしょうね……
 

誤解その2 管理職の権威を過大視する

 そうはいっても管理職に与えられている権限は存在するわけですが、この権限は「管理職」という権威(肩書き)によって保証されていると考えてしまうと悲惨なことになります。
 たとえば、権威に頼って独裁的な指示ばかりすると、部下から反発されるなんてこと想像に難くないですよね。要するに、「管理職だから」という理由だけで従う人ばかりではないということです。そりゃそうだ。
 

誤解その3 統制しなければならない

 新米管理職の方々は部下への服従を望む傾向もあるそうです。つまり、好き勝手にやられると困るという気持ちが強くなると、前述した「権威(肩書き)」に頼って服従を求める傾向が出てくるとのこと。
 誤解その2に書いたように、権威に頼ると部下から反発されたり、部下の仕事へのモチベーションの低下に繋がったりと良いことなしなのでやめておく方が無難でしょうな。
 

誤解その4 部下一人ひとりと良好な関係を構築しなければならない

 これはけっこう意外でした。
 なんでも、特定の部下(特に自分に対して協力的な部下)と仲良くしようとするあまり、ほかの部下との扱い方が変わって、不平等が生まれる。その結果、扱いの悪い方の部下から反発されるということもあるそうです。
 管理職はチームの結束力を高めるだけでなく、個人の業績を改善しなければいけません。だから、部下と仲良くすることだけを重視して、チーム全体に悪影響を与えるのは良くないよね、ってことですね。
 

誤解その5 円滑な業務運営を心がける

 これも意外でした。新米管理職にとっては円滑な業務運営でさえ難しいけど、それだけでなく業績の改善も並行して行わなければいけないと著者は説いてます。
 
「(前略)新米マネジャーの大半は上から指示された改革プランに従うだけである。つまり、チェンジエージェント(改革者)としての自覚に欠けている。彼ら彼女らは、ヒエラルキーに従った思考と権威へのこだわりのせいで、自分の責任をあまりに狭く定義してしまう。その結果、チーム全体が失敗した場合、その責任を制度上の不備や経営陣に責任転嫁しがちである。(中略)マネジャーたるもの、その所掌の範囲ないだろうが、よしんばそれを超えていようが、自分のチームの成功に向けて改革を起こす義務を負っている。そこまで権限が与えられていないことを無視してでも、チームのために改革に取り組まなければいけないのだ。」(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『マネジャーの教科書−−ハーバード・ビジネス・レビュー マネジャー論文ベスト11』2017年 ダイヤモンド社 33〜34頁)
 
 なるほど。現状維持では停滞するだけということですね。確かに利益を生み出して発展していかなければいけない会社的には、現状維持しかできない管理職って微妙そう。
 このあたりは、公務員が持ちにくい心構えなので注意したいところです。
 
 

では、管理職はどういう意識を持つべきなんだ?

 もちろん、管理職として上手に職務をこなす心得も解説してくれています。
 要約すると以下のとおりになりますね。
 
・権限を得たことで自由になれるという考え方は捨てて、部下や上司、社外の人たちとの相互依存を深めていこう!(チーム全体で成し遂げるという意識)
・権威(肩書き)によって信頼されるわけではなく、行動することによって信頼を勝ち取ることができるよ!
・あれこれ口出しせず、相手の意見にも耳を傾けよう!(傾聴スキル)
・部下を服従させるのではなく、自分の権限を共有していこう!
・現状維持だけでなく、業績を改善できるよう改革意識も持とう!
 
 とりあえずこの中から、できることから試してみるとよいかと。傾聴なんかは心理学的にもよく耳にするテクニックですし、悪くないのではないでしょうか。(R
 このへんの知識は、社員として上司の手腕を見るときの指標としても役に立ちそうですね。

 

 

マネジャーの教科書――ハーバード・ビジネス・レビュー マネジャー論文ベスト11

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